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最高裁判所第三小法廷 昭和47年(し)22号 決定

主文

原決定および本件勾留理由開示請求事件移送決定を取り消す。

理由

本件抗告の趣意は、別紙のとおりである。

所論に対する判断に先立ち、職権により調査するに、記録によれば、申立人は、昭和四七年三月三〇日強姦致傷被疑事件につき金沢簡易裁判所裁判官の発した勾留状により勾留されたところ、同年四月五日金沢地方裁判所に勾留理由の開示を請求したので、金沢地方裁判所裁判官は、同月六日勾留理由開示請求事件を金沢簡易裁判所に移送する旨の決定をしたが、申立人は、同月七日この移送決定を不服として金沢地方裁判所に準抗告を申し立て、同月一〇日準抗告が棄却されるや、同月一二日準抗告棄却決定に対し特別抗告を申し立てたものであり、他方、申立人は、同月一三日強姦致傷事件につき金沢地方裁判所に公訴を提起されたが、まだ第一回の公判期日が開かれていないことが認められる。

思うに、申立人の前示勾留に関する勾留理由の開示は、公訴の提起前においては、勾留状を発した金沢簡易裁判所の裁判官が行なうのが正当であるが、公訴の提起後においては、第一回公判期日前は、公訴の提起を受けた金沢地方裁判所の裁判官が、また、第一回公判期日後は、同裁判所(受訴裁判所)がこれを行なうべきものである(刑訴法二八〇条、刑訴規則一八七条、刑訴法八三条以下参照)。したがつて、金沢地方裁判所裁判官がした前示勾留理由開示請求事件移送決定およびこれを是認した原決定は、いずれもその決定の時点においては正当であつたが、公訴が提起された現在においては、もはや金沢簡易裁判所の裁判官は本件勾留理由の開示をすることはできないものであるから、前示移送決定および原決定は、いずれも決定に影響を及ぼすべき法令の違反があるに帰し、これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。

よつて、特別抗告趣意の所論に対する判断を省略し、特別抗告に準用すべき刑訴法四一一条一号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(天野武一 田中二郎 下村三郎 関根小郷 坂本吉勝)

特別抗告申立書(昭和四七年四月一二日付)

昭和四十七年四月十日付で勾留理由開示請求事件の移送決定の抗告に対するき却決定を受け取りました。

次の理由で特別抗告を致します。

司法は三権分立の頂点に位置し何よりも国民一人々が平等に裁判を受けれるものと思つております。

しかるに私の場合金沢中署の取調べでは何の抵抗もせぬのにあらんかぎりの暴行りようぎやくを受け、そして同日金沢簡易裁判所ではこの権力の不当性をおおいかくす様に思われる接見等禁止命令を受けました。

司法と司法行政のなれ合いとも思える様な出来事に出くわした私にとつて金沢簡易裁判所での勾留理由開示には憲法違反にも思え納得出来ません。

ヘタな先入観にとらわれる事なく真実を裁判して下ださればと思います。

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